小さいころ住んでいた町に所謂『クリスマスショップ』があった。
幼かった私から見ても、そのお店はとてもこじんまりとしていて、
店先の小さなツリーが「ここにクリスマスがありますよ」とささやかな呼びかけをしていた。
私はずっとそのお店のことが気になっていたけれど、
なんともいえない入りづらい空気が漂っていて、
お店の扉を開けることができないまま数年が経ってしまった。
数年経ってもそのお店は当たり前のように一年中クリスマスの装いをしていて、
冬じゃないのにクリスマスがあるなんて不思議だな、と思ったりしていた。
そんなある日のこと、私に転機が訪れた。
なにがきっかけだったか、もう遠い記憶のかなたに置いてきてしまったけれど、
ついにあの「一年中クリスマスのお店」に足を踏み入れるときがきたのだった。
たしか、友だちと一緒だったと思う。
小さな扉(小さいというより細長いが正しいかもしれない)を開けると、
チリンチリンとクリスマスに似合うベルの音が響く。
私はそのウェルカムなベルな音にすら身を縮こまらせて、
まるで立ち入り禁止の場所に入ってしまったときのように体を震わせた。
私にとって、そのお店はあまりにも未知の場所で、異空間だったのだ。
初めて入るお店へのドキドキ感とも違う、なんともいえない焦燥感。
縦に細長く狭い店内は、どことなく息苦しさも感じて、
自分がこの場所にいることが場違いのような、そんな気さえしたのだけれど、
それもほんの束の間。
私はすぐにお店の中の光景に目を奪われた。
そこには見たこともない綺麗なクリスマス雑貨が並んでいたから。
ほっぺが赤いサンタクロースの置物、美しい天使が描かれたクリスマスカード、
キラキラと繊細に輝くスノードームに雪だるまのお人形。
棚という棚にぎゅうぎゅうに並べられた雑貨は、
どれもこれも見たことのないものばかりで、とても新鮮だったのを覚えている。
どのくらいそれらを眺めていたのか。
なにか買った記憶があるが、それがなんだったのか。
子どもでも買えるささやかなクリスマスカードだったかもしれない。
もはやはっきりと思い出せないことが少し物悲しい。
お店を出ると、そこには日常が広がっていた。
見慣れた町の景色があった。
さっきまでたしかにクリスマスの中にいたというのに。
クリスマスのクの字も見当たらかった。
私はそれ以来季節外れのクリスマスは体験していない。
今もまだあの町のあの場所にクリスマスはあるのだろうか。
店先の小さなツリーは「ここにクリスマスがありますよ」と
ささやかな呼びかけをしているのだろうか。
小さかった私から見てもあのお店はこじんまりとしていたから、
大きくなった私に異空間への扉が見つかるかはわからないけれど。